NatureやScienceに自分の論文を掲載させたいですか? ほとんどの人ができていない高インパクト論文のための結論を書くコツ、教えます。
結論はまとめではありません。結論では、結論で書くべき内容があります。
ただ、書くべきことは決まっているので、ちゃんと型を勉強すれば誰でも書けます。この記事でちゃんと理解して下さい。
私がNatureのエディタに話した時、「論文の最後にまとめは書かなくていいと思う」と言っていました。同じ文をもう一度書く必要がないそうです。論文の情報の密度を上げたいのでしょう。こうした観点から、現代の論文において結論はまとめであってはならないのです。
結論では書くべきことは以下の6点です
(1) この研究で何をしたのか
(やったことを2-4文で説明する)
(2) どんな傾向を得たか
(結果の特徴を端的に紹介)
(3) その傾向が, 過去の研究結果と比べて何が違うか?
(できれば定量的に違いを説明する)
(4) その違いが, 研究成果の流れを俯瞰的に見たときいに, どれだけ驚きなのか?
(個々の違いを見るのではなく複数の研究結果の流れを見て、自分の結果がどの流れに属しているか、どの流れを否定するかなど、より俯瞰的に見たときの今回の結果の意味を客観的に説明する)
(5) 今後どんなことが起こりそうか?
(この結果を知らないと将来どんなことが起きそうか紹介する)
(6) 今後どんな研究が必要か
(1文くらいで書く)
もし得られた傾向が1つなら、(1)(2)(3)(4)(5)(6)で書きます。もしもし得られた傾向が2つなら、(1)(2)(3)(2')(3')(4)(5)(6)と得られた傾向ごとに書く内容が増やします。ちなみにもし得られた傾向が3つなら、(1)(2)(3)(2')(3')(2")(3")(4)(5)(6)です。
具体的には以下のように書くのを提案します。
特別なこだわりがないのなら、以下のフォーマットに沿って書くのがオススメです。
- In summary, we AAAAAA.
- The BBBBB allows CCCCC.
- From this, we found three major advances in the present investigation.
- First, DDDDD.
- Second, EEEEE.
- Third, FFFFF.
- The result shows that GGGGGG.
- That implies that HHHHH.
- IIIII is a complex phenomenon involving multiple simultanious phenomena, particularly JJJJJJ. KKKKK.
- LLLLL can be built with further study.
このテンプレートでは、結論は「In summary, we AAAAAA.」から書き始めます。AAAAAAの部分には、この論文ではどんな作業をしたのか簡潔に書きます。AAAAAAの部分は、著者が世界で初めてやった作業か、世界で初めてやった実験内容を書いてください。
できるだけ短く書ければいいのですが、世界で初めてやったことを説明しようとすると、必然的に長くなってしまいます。私は、「we observed Ag-Ag nanoasperities in sliding contact using a custom-designed NEMS-based apparatus for in situ high resolution TEM observations of contact phenomena in ultrahigh vacuum. 」でした。やっぱり長くなってしまいますよね。
BBBBBBには、AAAAAAをまとめたものです。例えばAAAAAが新しく構築した実験系によって初めてできた結果ならば、BBBBBはThe custom-desigened appratusとかThe proposed apparatusなどになります。AAAAAAが計測手法によって初めてできた内容なら、BBBBBはThe developed methodとかOur proposed analysysなんかになります。
CCCCCは世界で初めてやった作業の結果、何を実現できたのか、少し科学的な意味がある内容です。CCCCCはBBBBBによって具体的に得た物理量や、計測したモノを書きます。
私の場合、BBBBとCCCCは「The apparatus allows measurement of force and contact geometry, including contact width, of nanocontacts under combined tensile and shear loading in real time.」になりました。独自に構築したapparatusによって、contact widthやtensile loadingやshear loadingの計測を実現できたと言いました。
以上のように、結論の冒頭では独創性をできるだけ率直に言います。次に独創性によって得られた結果が何を意味するのか説明します。AAAAAとBBBBBとCCCCCの記入は、「(1) 何をしたのか」に相当します。
私は次に「From this, we found that Ag-Ag nanocontacts exhibited multiple surprising and unique phenomena.」と書きました。この後、箇条書きで得られた結果の傾向を箇条書きで書きます。
今回のフォーマットでは発見を箇条書きで3つ書きましたが、4つでもいいですし、1つでもいいです。研究の結果次第です。DDDDD, EEEEE, FFFFFは、まず結果の特徴を書きます。結果の特徴はそれぞれできるだけ1文で書きましょう。
例えば、「この実験の接合の強度が、バルクの値より20倍になった」とか「この実験の接合の強度は、せん断方向の力によって想定の60%になった」とか結果の特徴をそれぞれできれば1文で書きましょう。その後に、例えば「バルクの20倍になった」ことで、過去の研究結果と比べて何が違うかを説明しましょう。また「接合の強度は、せん断力で想定の60%になった」ことで、過去の研究結果どどう食い違うのかも紹介します。
つまり、この例の場合は、DDDDDは「この実験の接合の強度が、バルクの値より20倍になった」と「バルクの20倍になったことで、過去の研究結果と比べて何が違うか」に相当します。EEEEEは「この実験の接合の強度は、せん断方向の力によって想定の60%になった」と「接合の強度は、せん断力で想定の60%になったことで、過去の研究結果どどう食い違うのか」に相当します。
このように、それぞれ結果が示す傾向と、過去の結果との比較をセットにして、それらを箇条書きで書くのがDDDDD, EEEEE, FFFFFの部分です。
「The result shows that GGGGGG.」のGGGGGGは、箇条書きで紹介した結果(DDD,EEE,FFF)から何を客観的に解釈できるか説明します。この論文の最も重要な一言です。
「That implies that HHHHH.」のHHHHHは「メッセージ」です。もし今回の結果を知らなかったらどんなことが起きてしまうか予言します。もしメッセージについてもう少し知りたい方は、この記事を見て下さい。
Nature論文を書くために必須,「メッセージ」の作り方!
以上で研究内容は終了です。これ以降は、論文を終わらせるための文章です。以下に終わらせ方は説明しましたが、説明だけではなかなか理解できないと思うので、この記事の最後に添付した私の論文を見ながら以下の説明を読んだ方がいいかもしれません。
終わらせるための文章の最初は...「IIIII is a complex phenomenon involving multiple simultanious phenomena, particularly JJJJJJ. KKKKK.」IIIIIは論文の研究分野です。摩擦の研究なら"摩擦"です。2Dマテリアルの摩耗の論文なら"2Dマテリアルの摩耗"です。広く一般的なことを最後に言って論文を終わらせるので、広い言葉で言いましょう。
JJJJJには、他の研究者や読者が同様の研究に取り組むときに、考慮しなくてはいけない現実的な効果です。不純物、大気、多体系、境界といった今回の研究で排除したものの、現実的な系を見据えると考えなくてはいけない効果をできるだけ提示するといいです。
KKKKKには、こうした現実的な複雑な効果を取り除いて理想的に単純化された本研究結果が、今後の研究者が思わず比較したくなるような基準となる極めて重要な結果であることをアピールします。
JJJJJとKKKKKを一般化して説明するのは少し難しいのですが、ざっと言うと「この研究が鍵になっている」ことを言う文章です。そもそも研究というのは、現実の系を全て含んでいるのではなく、ある目標とする特徴を考察するために単純化された系のはずです。なので研究結果は直ちに現実の系を再現しているわけではないはずです。なのでJJJJとKKKKKでは、現実の系に拡張するには、まだ障害はあるけど今回の結果は誰もが参考にしたくなるシンプルな結果であるというアピールをする文章だと思っています。これは論文を読んだ読者が、本当に身近に起こる現象なのか考えるのに役立つ情報を載せることで、この研究の価値をより客観的に理解するのに役立たせるための文章です。
「LLLLL can be built with further study.」LLLLは今後どの様な研究によって、この研究分野がさらに進歩するのか紹介して論文を終わりにします。I, J, K, Lはそれぞれ論文を綺麗に終わらせるための典型的なパーツです。以下に例を添付したので実際に見てみれば、分かりやすいと思います。
一応、実際に私が書いたNature Communicationsの論文のリンクを載せておきます。8ページのIn summary, we observed Ag-ag...からが結論に相当します。
結論の部分で、フォーマットに沿って書いているのが分かります。From this, we found...やFirst, ...やSecond,...やThird,...や、The results show that...といったフォーマットに注目すると典型的な結論の構造になっているのを確認できます。
That impliesではなく、This in turn may affect ...や This indicate ...など、言い方を少し変えている部分はありますが、ほぼ今回紹介した基本のフォーマット通りに書いてあるので読んでみてもらいたいです。
T.Sato,et.al."Ultrahigh Strength and Shear-Assisted Separation of Sliding Nanocontacts Studied in situ" Nature Communications, 13, 2551 (2022)
結論では...
(1) 何をしたのか
(2) どんな傾向を得たか
(3) その傾向が, 過去の研究結果と比べて何が違うか?
(4) その違いが, 研究成果の流れを俯瞰的に見たときいに, どれだけ驚きなのか?
(5) 今後どんなことが起こりそうか?
(6) 今後どんな研究が必要か
英語だとテンプレは...
- In summary, we AAAAAA.
- The BBBBBB allows CCCCCC.
- From this, we found three major advances in the present investigation.
- First, DDDDDD.
- Second, EEEEEE.
- Third, FFFFFF.
- The result shows that GGGGGG.
- That imply that HHHHHH.
- IIIIII is a complex phenomenon involving multiple simultanious phenomena, particularly JJJJJJ. KKKKK.
- LLLLLL can be built with further study.
高インパクトの論文誌を狙うには、結論で強いメッセージを書く必要があります。訓練なしにいきなり良い結論を書けるようになれません。1歩1歩、書く技術を向上させ続けていきましょう
このwebサイトは論文の書き方を網羅しています。記事を読んでくれているあなた。本当にありがとうございます。あなたの感謝の声は私の喜びです。研究や論文について知りたいと思うあなた、最高です。好きです。研究者として生きてくと必ずつらい時期はあると思いますが、前向きに続けていれば良いことだって必ずあるので、私と一緒に頑張っていきましょう。いや、頑張らなくてもいいので、ゆっくりでも気軽に進歩していきましょう。これからもよろしくお願いします
・言いたいことが自分なりに整理できたら、次はFigure(図)を書き始めましょう。ぜひこの記事を参考に。
論文の図の書き方,まずはここから: inkscapeを使おう
・Nature Communicationsに採択された原稿に、解説を付けたテンプレートを作りました。Webサイトの解説した内容が実際にどう論文に反映されたか実例を見ながら理解できます。研究者として上を目指したい方、ぜひ参考に。
論文の解説付きテンプレート、なぜ重要なのか?
・論文の書き方は教わりましたか? このWebサイトに書いてある高インパクト論文の書き方をスライドにして1つにまとめました。論文の "型" を自習する教材として最適です。ぜひ参考に。
高インパクト論文の書き方をどう自習するか? [結論:この解説付きスライドを読もう]