論文とは? 論文誌とは? 査読とは? 論文の基本を網羅的に知りたいですか?
それら基本の全てを書きました。
(a)初めて論文を読む人、(b)初めて論文を書く人、(c)これからNatureなどのトップジャーナルにチャレンジしたい人、全ての人に必読です!!
論文とは...
(1)主観的な根拠に基づいて考察せず、客観的なデータに基づいて考察された原稿です。
(2)また、根拠となるデータの信憑性を読者が自分で確認できます。つまり結論の根拠となるデータの妥当性を自分で確認したいと考えたとき、その実験を再現してデータを取得する方法が記されています。
(3)最後に、論文は新規の内容でなくてはいけません。つまり、今まで他の論文で考察されてこなかった、何か新しい発見が含まれています。
(1)-(3)の詳細は、[論文とは何か? 論文で書かれるべき内容をできるだけ詳しく定義しました]を参考にして下さい
(1)-(3)を満たしている原稿を、論文誌に投稿して、論文誌が掲載した原稿を論文と呼びます。
論文誌とは...
ざっくり言うと、論文を出版する雑誌のことです。
有名な論文誌として、The Lancet、Cell、Nature、Science、Physical Review Letter, Nature MaterialsやNature Communicationsなどの Natureシリーズがあります。
論文誌にはインパクトファクターという数字があり、有名な雑誌ほどインパクファクターは高くなる傾向があります。インパクトファクターとは、論文誌の価値と言っていいです。
論文誌には編集者(エディター)がいます。エディターは原稿を選ぶ作業と、論文を出版する作業をします。
もっと論文誌について知りたかったら、[論文誌とは何か説明しました。論文とは、論文誌に掲載された原稿です!]を参考にして下さい。
エディターは原稿を受け取ると、まずそれを読みます。掲載してもいいかもと思ったら、次に研究者に出版する水準か判断してもらいます。これを「査読」と言います。査読を合格すれば原稿は論文として出版されます。
査読とは...
(1)実験の手法は妥当か、(2)比較すべき過去に行われた類似の研究を全て記載しているか、(3)結果から結論を導く論理に誤りがないか、といったことを吟味します。
エディターは原稿を受け取ると、エディターキックするかどうか決めます。要は門前払いです。
もし門前払いがなければ、エディターは研究者にレビューを依頼します。メジャーリビジョン、マイナーリビジョンを全て合格すれば原稿は採択されて、論文として出版されます。
もっと知りたかったら[論文が査読されて掲載されるまでの全ての手順]を参考にして下さい。
査読においてまず最初に注意しないといけない点は、エディターキックです。
エディターキックとは...
エディターが原稿を受け取って、研究者によるレビューをすることなくリジェクト(不採択)することです。これをエディターリジェクトとか、エディターキックなどと呼ばれています。要は「門前払い」です。
原稿を投稿してから10日間リジェクトの通知が来なかったら、エディターのチェックを通過したと思っていいです。
Natureシリーズなどのトップジャーナルでは、ほとんどの原稿(私の経験だと90%くらい)がエディターキックされます。ほぼ全ての研究者が、この最初のハードルを超えることができません。合格は極めて困難です。
もっと知りたい方は、[査読での最初の関門、エディターキックとは何か]を参考にして下さい。
幸運にもエディターキックを通過したとしても、次はメジャーリビジョンが待っています。
メジャーリビジョンとは...
自分の投稿した原稿がレビューワから査読されて、修正の依頼が来ている状態のことです。「論文の主張が正しいのか?」という論文の根本的な妥当性を疑う質問を含んでいます。
(a)質問に対する返答(リブッタルレター)と、(b)修正した原稿の2つを、エディターに提出する必要があります。
この次は、(1)リジェクトされるか、(2)もう一度メジャーリビジョンをやり直すか、(3)マイナーリビジョンに進めるか、の3択です。
私の経験上、トップジャーナルだと70-90%がここでリジェクトされます。リブッタルレターで、自分の原稿の主張が妥当であるとちゃんと説得する必要があります。
もっと知りたかったら、[査読での2つ目の関門、メジャーリビジョンとは何か]を参考にして下さい
メジャーリビジョンを通過したら、最後はマイナーリビジョンに行きます。
マイナーリビジョンとは...
メジャーリビジョンを合格した後に来る最後の査読の課程で、論文の主張がレビューワから認められたものの、誤字脱字や図の見づらさなど修正すべき点がまだ残っている状態のことです。
リブッタルレターには厳しい質問は含まれておらず、指摘された点に同意するだけなはずです。
提出した後は、エディターがほぼ完成版に近い書類(pre-proof)を完成させます。著者はこのpre-proofを受け取って承認するだけです。ここまで来た原稿は採択されたと言っていいです。
もっと知りたかったら、[査読での最後の関門、マイナーリビジョンとは何か]を参考にして下さい
残念ながらほとんどの論文は、マイナーリビジョンまで来ることなくリジェクトされてしまいます。
論文を書きますか? 書くなら絶対に注意してほしいことが1点あります。
今までどんな問題があって、今回はそれを解決した結果、何が分かったのかを必ず書いて下さい。
高インパクトの論文においてリジェクトの理由はさまざまですが、低インパクトの論文ではリジェクトされる理由はだいたい一緒です。
「その論文、何が言いたいんですか?」原稿を書き始める前に主張を1つ決めておきましょう。それだけでだいぶ論文がよくなります。
もう少し知りたかったら、[私が論文をリジェクトする1番の理由]を参考にして下さい
他にも典型なリジェクトの理由はいくつもあります。
エディターとレビューワは科学っぽい理由をつけて論文をリジェクトします。このため「つまらない」とか「汚い」とか科学っぽくないリジェクト理由を著者に教えてくれることありません。
例えば... 問題が不明、図がダサい、グラフがダサい、返答がムカつく、嫌いな人が著者にいる、アブストが変、タイトルがダサいなどです。
もう少し知りたいなら[隠れリジェクト要因: みんなが教えてくれないリジェクトの理由]をチェックして下さい。
こうゆう欠点を減らすだけで論文が採択される確率がグッと上がります。
自分が投稿した原稿が何%で採択されるか知りたいですか? いくつかの論文誌の採択率を紹介します。
私の印象だと。8%以下は極めて困難、15%以下は結構大変、25%以下は頑張らないと採択されない、30%以上は変な事を書かなければ採択される、です。
・Nature : 7.6%
・Science : 6.1%
・Nature Materials : 6%
・Nature Communications : 7.1%
・Science Advances : 10.4%
・Advanced Materials : 16%
・Journal of the American Chemical Society (JACS): 25%
・Physical Review Letters : fewer than 25%
・Scientific reports : 48%
・Physical Review B : about 50%
・Japanese Journal of Applied Physics (jjap): 75%
他の論文誌の採択率も知りたい方は、[論文の採択率を知りたい!]を参考にして下さい
Natureなどのトップジャーナルは、採択率の他にも違う点があります。
Nature論文とそうでない論文、特に違う点は次の4点です。
(1) レビューワにレビューされることなくほとんど(私の経験では90%くらい)の原稿がエディタの判断によってリジェクトされます。このため率直に論文の独自性や波及効果をエディタにアピールできるカバーレターが、より重要になります。
[過去の記事: カバーレターの書き方]
(2) レビューワ レビューでもほとんど (私の経験では80%くらい)リジェクトされるので、研究の内容を良くするといった当然の努力はもちろんのこと、感じの良いリブッタルレターを書く、根拠なく他人の研究を否定的する変な研究者をカバーレターの段階で事前に削除するといった研究以外の部分での対策が必要になります。
[過去の記事: レブッタルレターの書き方]
(3)レビューワからアクセプトが出ても、その後にリジェクトされる可能性があります。レビューワからの修正依頼に対して、より全力で応える必要があります。
(4) 採択までの時間はとても長く(私の場合は2倍くらいに)なります。より一層 辛抱強くなる必要があります。
もっと知りたかったら詳細は、[Nature論文とそうでない論文、採択まで何が違う?]を参考にして下さい。
この記事の最後にオカルトを紹介しておきます。
Natureクラスになると採択率が極めて低いので、本当に正しいのかわからないコツが世の中に多く出回っています。私がよく聞くオカルトを紹介すると、例えば...
(1)カバーレターに5年以内に一緒に論文を書いた人をレビューワ候補のリスト入れると即リジェクト
(2)業績リストを見たとき、大量の低インパクトの論文でリストが埋まっている研究者は即リジェクト
(3)70%の参考文献が3年以内でないと即リジェクト
(4)投稿する論文誌の論文をたくさん載せるとアクセプト率がアップ
論文に関するオカルト、実は他にも結構あります。もっと知りたかったら、[論文に関するオカルト、あなたは信じますか?]をのぞいてみて下さい
以上です。どうですか、論文とは何か、論文誌とは何か、査読とは何か、網羅的に説明しました。特に査読は非常に複雑で、いろいろなリビジョンがあるのを紹介しました。またトップジャーナルと、そうでない論文誌の何が違うのかも紹介しました。
おめでとうございます! これでかなり論文に詳しくなりましたよ!!
・Nature論文を書きたいですか? 論文の書き方の技術を網羅的に紹介しました。もしファーストクラスの論文誌に挑戦するなら、この記事を見て下さい。
論文の書き方: Nature, Science, Cellへの道
・Nature Communicationsに採択された原稿に、解説を付けたテンプレートを作りました。Webサイトの解説した内容が実際にどう論文に反映されたか実例を見ながら理解できます。研究者として上を目指したい方、ぜひ参考に。
論文の解説付きテンプレート、なぜ重要なのか?
・論文の書き方は教わりましたか? このWebサイトに書いてある高インパクト論文の書き方をスライドにして1つにまとめました。論文の "型" を自習する教材として最適です。ぜひ参考に。
高インパクト論文の書き方をどう自習するか? [結論:この解説付きスライドを読もう]